[実習者]:琉球大学医学部医学科4年

[実習先]:亀井内科・呼吸器科

[実習期間]:7月23日〜25日、8月5日〜9日、8月26日〜29日(計12日間)

[実習の目的]:

1)地域医療を担う診療所と診療所医師の業務について理解する

 大学で学んでいると地域医療を担う現場に参加する機会にあまり恵まれない。そのた

め、今回の実習の第一の目的は、診療所がいかにして地域医療を担っているのかを実際

に見せていただくことで、4年という低学年の視点から地域医療の実際について自分な

りに把握し、考えてみたいというものだった。そして、そのような地域医療を担われて

いる開業医の先生の日々業務とはどのようなもので、先生が毎日どのように感じながら

業務を行われているか、開業医としての喜びやご苦労を伺ってみたいと思っていた。

2)家庭医として必要な資質を学ぶ

 また、地域の家庭医として必要な技術・知識・心構えについて、実践を通して学ばせ

ていただきたいと考えていた。

3)グループ医療とはどのように機能するのかを知る

 本診療所の入居している日丸名古屋ビルには、約30名の開業医が集合してグループ診

療を行っている。このようなグループ診療がいかにして機能しているのかを見学するこ

とにも大変関心を持っていた。

 

[実習内容]:

(1)外来診療の見学実習

 診察室で患者さんの後ろに座り、先生の外来診療の様子を見学させていただいた。ま

た、聴診器で患者さんの身体所見を聴取させていただいた。

(2)医療面接実習

 初診の患者さんを中心に、患者さんの待ち時間の間に血圧測定と医療面接をさせてい

ただいた。

(3)診断演習

 実習の後半には、医療面接の結果から私が考えた患者さんの病名2、3個を医療面接

内容と共にメモに記載し、亀井先生に手渡した。先生からは、患者さんが帰られてから

私の行った診断に対しフィードバックをしていただいた。

(3)往診同行・在宅医療受診患者さんとのコミュニケーション

 先生の往診に同行し、在宅医療の様子を見させていただいた。また、在宅治療を受け

られているある患者さん宅に私1人が残り(先生は別の患者さん宅を往診)、約1時間ほ

ど患者さんとその奥様(介護者)の話を聞かせていただいた。

(4)保健所検診の見学

 亀井先生は定期的に保健所検診業務の支援されており、その業務に同行した。胸部X

線写真に異常所見ありと他の医師がスクリーニングした検診受信者を、ダブルチェック

のため亀井先生が診察する様子を先生の横で見学させていただいた。

(5)その他

 診療時間前後の時間などに、身体所見の取り方、医療面接、診断と治療法、EBMの実

践の仕方、情報収集の仕方など具体的なアドバイスを先生からいただいた。また、食事

の際など折に触れて、先生の診療への思い等につき、お話をいただいた。

 

[実習について]:

(1)家庭医について

 実習中最も印象に残ったのが、患者さんが亀井先生を心から信頼し、頼りにされてい

る様子であった。亀井先生は患者さんの話を長い時間をかけて聞き、また丁寧な身体所

見を取って診療されており、私が今まで患者として出会ったどの医師よりも丁寧で親身

な診療であった。また、患者さんは具合が悪いときには24時間いつでも必ず先生に連絡

がつく電話番号を診療所から受け取っており、先生やスタッフも事あるごとに「真夜中

でも日曜でも、何かあったら本当にいつでもよいから連絡してくださいね。ささいな事

でも緊急のことでも何でもいいから」と何度も患者さんに言われていた。そのような先

生に対し、「先生に聞いてもらうだけで安心」と患者さん達は病気の話、家族の話、仕事

の話等多くのことを話され、心から先生を頼りにされている様子であった。患者さんに

とって、トータルに様々な問題について相談でき、また24時間いつでも連絡できる家

庭医の存在は心から有難いものであろう。亀井先生の診療姿勢からは、患者さん達の身

体的疾患だけでなく精神的なケアも十分に行っている家庭医の姿を見せていただいた。

(2)電子カルテとカルテ開示

 診療所はすべて電子カルテへの記入となっており、またカルテは患者さんがわかる言

葉で書かれ、大部分は印刷をしファイルに閉じて患者さんに手渡されていた。こうして

患者は、自身の病気、薬についての詳細情報を毎回受け取ることが出来、患者さんも自

身の病気について知識を得ることが出来るだけでなく、他の医療機関を受診する際にも

資料として提出できる。また、問診内容も丁寧に記載してあるため、患者さんは自身の

訴えが十分聞かれていることを、カルテを見て再認識できるであろう。

(3)グループ診療

 このビルの診療所は、検査室を共用する形となっており、定期的に勉強会や情報交換

の機会も持っており、非常に有機的なつながりをもったグループ診療を提供していた。

グループ診療では、総合病院なみの高度専門医療と検査が1つの場所で提供される一方

で、各診療所では家庭医・地域医と患者との間のきめ細かい関係が築かれていた。この

ようなグループ診療は日本では数少ないと聞いているが、患者側にとってグループ診療

のメリットは非常に大きいと感じた。

(4)患者さんとのコミュニケーション

 亀井先生から患者さんとの関わり方を学ぶだけでなく、私自身が医療面接や在宅医療

者訪問等を通じて患者さんと話をする機会を多く作っていただいた。医療面接では、亀

井先生のアドバイスに従い、極力closed questionを避け、open

questionを発するよう

注意をしながら行い、また患者さんの話をなるべくゆっくりと聞くように心がけた。患

者さんとゆっくり話をするというのは、大変に楽しい時間であった。実際の医療現場で

は、学生の立場の今とは異なり、会話を楽しむ時間は少ないであろう。しかし、忙しく

てもあくまで患者さんの訴えを十分に聞こうという姿勢を大切にしていきたい。また、

それを可能にするのは医師の心がけ次第なのだということを亀井先生の診療から学ぶこ

ができた。

(5)診断演習

 医療面接をさせていただいた患者さんの病名をいくつか絞り込み、それにつき亀井先

生から指導をいただいたことで、実際の診療を行っているかのような、大変に実践的な

演習となった。まだ4年で各疾患についての知識が浅いため、演習では大きな診断ミス

(?)をすることも多々あったが、この演習をすることで各疾患につき深く理解するこ

とができた。

(6)胸部X線写真読影

外来診療においてまた保健所検診において、今回の実習では多くの胸部X線写真を見

る機会に恵まれた。大学の臨床講義の段階では、明らかな所見のある写真を大きな講義

室で遠くから眺めるという学習しかしたことがなかったため、多くの写真を集中的に見

せていただいた今回の実習では大変に勉強になった。また、教科書に掲載されているよ

うな明らかな異常所見だけでなく、微妙で難しい所見が臨床ではほとんどであり、その

ような写真を多く見せていただいたことは大変に有意義な学習となった。

(7)身体所見の取り方

BSLをまだ行っていない私は、身体所見の取り方も全く知らなかったのだが、先生か

ら直接1から丁寧にご指導いただいた。また、身体所見の取り方のビデオも貸していた

だき、自宅でも学習した。このような実習は、低学年の学生にとっては、早い段階で臨

床の一端に触れた思いができる楽しい学習で、このような演習は学生のモチベーション

向上につながるのではと感じた。

 

[おわりに]

 実習中、亀井先生に「先生が開業医をされていて一番楽しく感じられるのはどんな時で

すか」とお尋ねしてみた。その時の「患者さんが『病気とは直接関係ないけれど…』と色々

なお話をしてくださるのを聞いたときかな」という亀井先生の言葉は非常に印象的で、私

の脳裏に焼きつく言葉となった。

 診療所の実習中私が感じていたことは、「亀井先生のような家庭医に私自身が、そして家

族が診ていただきたい」ということであった。今回の実習では、亀井先生の家庭医として

の姿から、多くのことを私自身感じ、学ばせていただいた。亀井先生からは理想的なロー

ルモデルを示していただいた。今回の実習で考えたこと、得たことは、私の医療人として

の今後の生活の中で大きな意味を持つこととなると思う。亀井先生、先生の奥様、病院ス

タッフの方々には大変にお世話になり、心から感謝している。本当にありがとうございま

した。